英国病の原因は、社会主義?
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サッチャーは、質素倹約、勤勉を美徳とするメソジスト派のキリスト教徒であった。
また個人の自由を尊ぶリバタニアンであり、労働組合による労働者の束縛は、悪であると非難していた。
サッチャーによると、衰退するイギリス経済の元凶は、国民の生活に口出しする大きな政府であり、個人の自由な経済活動を保証する市場経済こそが有効であるという。
高インフレと不況の併存が英国病であるが、その原因は、
- 行政頼りの風潮を煽る大きすぎる政府
- 生産性が低く投資が欠如している公共事業
- 個人の機会の閉塞感(企業家精神の減退)
- 行き過ぎの社会福祉
- 景気と関係なく賃金アップを求めてストを行う強すぎる労働組合
なので国家の負担が大きなNHS(国家医療制度)の充実や、炭坑庁など、赤字の国営企業への補助金支出、教育機関への支出増加は、悪い政策と断じて減らした。
そして国営企業の民営化、公営住宅の売却、産業への規制緩和、高所得者の減税などを進めて、企業家精神の復活を狙った。
サッチャーは財政規律を正すため、財政支出の3分の2を占める福祉・教育・軍事で削減を求め、金食い虫の三隻の空母の売却の準備もした。
ところがイギリスの軍事費削減をチャンスと見たアルゼンチンがフォークランド諸島を占拠したため、削減し損なってしまった。
サッチャーの毅然とした態度によってフォークランド紛争には勝利したが、その一方で、軍事費の削減は棚上げになった。
民営化と規制緩和
サッチャーは、イギリス経済低迷の原因は、企業家精神が社会主義によって物質的にも精神的にも封じ込められてしまったことだと考えていたらしい。
なので古き良き質素・倹約・勤勉というプロテスタントの価値観をイギリスに復活させようとした。
その一つの方法が、民営化と規制緩和で、まず国営の貨物輸送会社を民営化してみた。
その結果、驚くべき効率化が達成されたために、政権2期目では、BP(英国石油) 英国航空、ケーブル&ワイヤレス、ブリティッシュテレコム、ジャガー、ロールスロイス、ブリティッシュスチール、北海油田、ブリティッシュガスなどの民営化に着手した。
これらの国営企業の民営化では、株式の一部を従業員にも割り当て、株主としての権利と責任を実感させようとした。
また88年には、6段階だった所得税の累進課税方式を、2段階に改めて、最高税率も大きく引き下げた。
これは高所得者層の減税を行って景気刺激しようとしたモノだったが、なぜか税収はさほど変わらず、景気刺激にはならなかった。
サッチャーの改革は、行政改革に集中し、公務員にも官僚にも、コスト意識と能率を求めた。
国家公務員は79年には約73万人だったが、89年には約57万人まで減らし、22%もの削減に成功した。
地方自治に対しては、政府からの補助金削減によって、自治体の自立を働きかけた。
また地方分権が労働党や労働組合による支配によって歪められていると考えたサッチャーは、中央政府が国民を直接支援する体勢を整えた。