労働者意識のない労働者の出現

イギリスの総選挙の勝ち負けを分けるのは選挙ごとに投票行動が変わるスウィング選挙区で議席を獲得できるかどうかである。

 

イギリスでは保守党候補が毎回議席を獲得する選挙区が約200、労働党候補が毎回議席を獲得する選挙区が約200ほどあって、これらの選挙区ではほとんど無風状態だ。

 

しかし「スウィング選挙区」と呼ばれる激戦区が約250ほどあって、ここでいかに多くの議席を獲得できるかが、勝敗を分ける。

 

そこで労働党の新党首となったトニー・ブレアと、盟友ゴードン・ブラウンは、労働党復権のため、スウィング選挙区の有権者の投票行動を調査した。

 

そしてその調査から浮かび上がってきたのは、南部イングランドの都市周辺地域で、労働者意識を持たない新しい労働者階級が出現し、保守党支持者になっているという現実だった。

 

南部の都市近郊に住むホワイトカラーや上級労働者たちは、労働党政権になると増税やインフレが起こり、それがイギリスの経済成長を妨げているのだと考えていた。

 

「機会均等」や「選択の自由」を提供するのは保守党であって、労働党は「結果の平等(悪平等)」を目指す党であると認識されていた。

 

彼らにとって、新自由主義を掲げ、規制緩和を進めるサッチャー保守党は「新しい政党」であり、「自由と新たなチャンスをくれる政党」であった。

 

一方、社会主義を掲げ労働組合による支配を目論む労働党は「古い政党」であり「国民を束縛し、従わせようとする政党」なのであった。

 



脱工業社会のエトス

イングランド南部の都市周辺の選挙区で、保守党支持者が増えていった背景には、社会構造の大きな変化があった。

 

社会の基盤インフラが整った先進国では、80年代から徐々に工業社会から情報社会への変化が始まっていたのだ。

 

その変化を未来学者と呼ばれる作家達は、70年代後半からすでに注目していて、1980年にはアルビン・トフラーが「第三の波」を著してベストセラーになった。

 

トフラーによると、農業が人類にもたらした変化を「第一の波」、工業が人類にもたらした変化を「第二の波」とすると、今また人類に大きな変化をもたらす「第三の波」が到来しつつあるという。

 

それによって工業社会の常識がくつがえり、世界の様子は全く様変わりするのだという。

 

産業革命が始まってから約300年、世界は

  • 標準化(規格化)
  • 専門化(分業化)
  • 同時化(同期)
  • 集中化
  • 規模の極大化
という方向性を持ち、画一的な商品やサービスを大量生産し、それを大量消費する工業社会ができあがった。

 

しかし工業化が進んで生産技術が上がってしまった社会では、商品やサービスが多様化し、モノがあふれてしまった。

 

同じモノが山ほどあると、人間は飽きるし鈍感になるから、消費者はありふれたものではなく、違ったモノが欲しくなり、「他人とは違ったもの」を有り難るようになった。

 

また、どんな魅力的な商品であっても、耐久性があれば同じモノはたくさん必要ないから、次は違うモノを買おうとし始めた。

 

となると、一つの商品が爆発的に売れると言うことは珍しくなり、メーカーも大量生産する必要がなくなるので、規模の極大化による利点(スケール・メリット)がなくなり、大企業も中小企業と同じ土俵で戦わざるを得なくなる。

 

もちろん企業が労働者に求めるスキルも大きく変わり、時間単位で働けばよい単純労働ではなく、結果を出すことを要求されるようになった。

 

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