ミリタント、今度は2500万ドルを要求

イギリスでは、地方税はレート税(固定資産税)だけである。

 

政府は教育や医療、警察や消防など、最低限の公共サービスを提供するために、一般交付金と特定補助金を支出するが、それ以上の公共サービスは地方税で賄う。

 

そして地方税の税率は一定ではなく、毎年変わるのがイギリスの地方税だ。

 

イギリスでは、政府から補助金以上の支出は、全て地方で賄うというのがルールで、その分、地方税率の税率が引き上がることになるのだ。

 

なのでリバプール市議会の過半数を占めたミリタント派は、すぐに税金のバラマキのツケ払いを迫られた。

 

すなわち財政支出削減と、150%以上のレート税率の引き上げだ。

 

しかし「貧しい者を壊すより、法を壊す方がよい」というスローガンで、議席の過半数を獲得したリバプール労働党である。

 

1,200人の人員削減をキャンセルした上に、1,000人も職員を増員しているのだが、これをクビにする気は毛頭ない。

 

そこで環境大臣をマージーサイド(マージー川周辺地区)の貧民街に招き、劣悪な住宅環境を見せて、1500万ポンド(45億円)の特別融資を引き出した。

 

(※1ポンド=300円換算 1985年当時)これによってレート税率の引き上げは、150%ではなく17%の引き上げですんだのだが、騒ぎはもちろんこれだけでは終わらなかった。

 

翌年(1985年)には、リバプール以外の地方自治体からも、違法予算を組んだ後にレート税率の決定を遅らせ、政府から特別融資を引き出そうという動きが出てきた。

 

リバプール市議会もまた赤字予算を編成してレート税率の決定を遅らせ、政府から2,500万ポンド(75億円)の融資を要求し始めた。

 

しかし新しい環境大臣は彼らの要求を拒否したため、リバプールは公債の償還のための資金繰りができず、約3万人の市の職員に一時解雇を通告する事態に陥った

 



キノック、ついにミリタントを追放・除名にする

ミリタント派が過半数を占めるリバプール、とうとう3万人の職員に一時解雇を通告する事態に至ってしまう。

 

市の職員組合はすぐさまこの通告を、無効だと裁判所に訴え出て、労働党議会を非難し始めた。

 

そして労働党本部も事態打開に動き出す。

 

というのもこのままリバプールが破産してしまうと、労働党に行政担当能力がないことを全国にさらすことになってしまい、政権奪回を目指すキノック労働党の足枷になる。

 

そこで労働党は調査団を結成して、リバプール市の財政赤字対策を検討した。

 

そして予定されていたレート税率の引き上げを、さらに15%引き上げて1900万ポンドの増収を図り、収支を均衡させることを提案したが、ミリタント派はこれを拒否した。

 

ミリタント達の狙いはあくまでも、政府と直接取り引きを行うことであり、そのために約3万人の職員の一時解雇など、マスコミに騒ぎを大きく取り上げてもらって、政府に責任転嫁する材料の一つに過ぎなかったのだ。

 

一方、労働党党首のニール・キノックは、リバプール市が破産した後の処理について、保守党議員に頭を下げて検討せねばならず、ミリタント派の行動に怒り心頭で、彼らを「労働党内に住みつくウジ虫」と呼び始めた。

 

リバプール市の財政破綻問題は、11月になってようやくリバプール労働党が折れ、レート税率の再引き上げと、住宅修繕維持基金の証券化により、スイス銀行の借款団から3,000万ポンドの融資を受け、ようやく収束した。

 

しかしミリタント・テンデンシーの暴挙で労働党は、「公務員を増やし増税する党」というレッテルを貼られることになり、1987年の総選挙でもサッチャー保守党に3連敗を許してしまう。

 

そうしてキノックは1987年の総選挙後、堪忍袋の緒が切れて、ミリタント派の除名を決断する

 

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