社会主義のジレンマ
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1960年代のイギリスは、賃上げとインフレの悪循環で輸出品の国際競争力を損ない、世界の工場の面目をすっかり失っていた。
そして世界の工場の称号もアメリカに奪われ、さらには敗戦国の日本やドイツにも追い抜かれ始める始末。
そこで大きな問題となってきたのが、社会主義のジレンマだ。
ジレンマとは、簡単に言うと板挟みと言うことだが、労働組合によって選ばれた労働党政権では、労働組合の暴走が止められないって事である。
60年代以前には、労働党と労組は棲み分けを行っており、実際の活動においてはお互いに干渉しない立場を堅持していた。
つまり労働党は議会で平等や教育や社会福祉などの充実を図り、一方、労組は個別に自由に経営者側と交渉を行って、賃上げや待遇改善を図っているだけだったので、あまり問題は大きくなかった。
ところが労働党傘下の労働組合が60年代以降、自分たちの利益のために毎年ストを始め、労働党の党首選にも組合の意向をごり押しし始めたから、労働党政権は巨大な自己矛盾に陥ってしまったのだ。
共産党分子やミリタント(トロツキスト:トロツキー主義者)の加入戦術により、地方の労働組合は左派活動家にすっかり支配されてしまい、左派勢力は労働組合を通じてイギリス支配を始めたわけだ。
地方労組の非公式ストが、労働党政権を追いつめる
基幹企業の労働者だけが得をするスト容認か、それとも社会全体に利益があるインフレ抑制か。
国家を運営する政府なら、選択すべき選択肢はもちろんインフレ抑制だろう。
スト権を乱用して自分たちの利益ばかりを図る国有企業の労働者を優遇するなんて、まともな民主国家ではあり得ない話である。
だいいち公務員・公社職員が特権を利用して、ストでどんどん賃上げ要求を通せるのなら、いくらでも国民搾取ができることになってしまう。
こんな事を許していたら、国は潰れてしまいかねない。
ところが労組を支持母体とするウィルソン労働党政権は、毅然とした態度が取れず、インフレがどんどん進行するという事態を招いた。
主要労組に賃上げの上限を抑えるように要請はするのだが、地方の労組はそれを無視して非公式ストを行い、どんどん賃上げ闘争を行っていたから効果がなかったのだ。
この地方労組の「非公式スト」が生産計画を大きく狂わせ、社会全体に及ぼす影響もかなり大きくなってきたため、労働党政権でもこれを法的規制すべきだという意見が増えてきた。
そこでウィルソン首相と労働大臣は非公式ストを禁止しようとしたが、ここで労組側からの猛烈な反対運動が起こって実現しなかった。
その結果、賃上げは要求し放題と言うことになって、何かにつけてストを打ち賃上げを勝ち取ろうとする急進的な左派運動家が、人気を集め始めた。
そして労働党を支える炭坑労組、運輸労組、合同機械工組合などの、基幹産業の労働組合までが左派運動家に支配されるようになった。