最凶の労組 全国炭坑夫組合NUM
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フォークランド紛争勝利によって、国民的英雄となったマーガレット。
悪性インフレ退治にも成功し、1983年の選挙でも勝利を勝ち取った。
そこでマーガレットは、最凶の労組全国炭坑夫組合NUMとの対決を決意する。
炭坑労組はコスト・プッシュ・インフレの元凶であり、ヒース政権を炭坑ストによって退陣に追い込んだ筋金入りの反保守党勢力だった。
委員長のスカーギルは、マルクス主義者であり、事あるごとにサッチャー保守党内閣を非難し続けていたし、炭坑労組をコントロールできなければ、いつまたイギリスの石炭エネルギーを人質にして、イギリス経済の安定を揺るがしかねない。
炭坑労組が行うストによって経済活動が止まるのはイギリス経済の大きなカントリーリスクであり、投資の妨げだ。
だから炭坑労組は、内外から投資を呼び込んで、イギリス経済を再生しようとしているサッチャーにとって、目の上のたんこぶであったし、さらに彼らが働く石炭庁は、イギリス国営企業の中で最大の赤字団体だった。
イギリス政府は1984年には、年間約10億ポンド(約3160億円※)もの助成金を石炭庁に投じていたので、財政赤字削減のためには、なんとしてでも炭坑事業を整理・合理化する必要があったのだ。
※1ポンド=316円(1984年の為替レート)
3000億円の上納金
1980年代、石炭採掘事業は既に儲からない事業になっていた。
しかし炭坑労組は労働党すらも手に負えない組織になっており、年間10億ポンド(3000億円)もの助成金を政府からむしり取っていた。
産業革命の元祖であるイギリスでは、石炭を主エネルギーとして使う経済が早くからできあがっており、また国内で自給できる石炭エネルギーは、安全保障の観点からも重要だった。
ところがそれを良いことに、炭坑労組は秋になると毎年のようにストを行うようになり、賃上げを勝ち取るようになった。
そしてそれがイギリス全土のエネルギーコストを引き上げ、終わりのないコストプッシュインフレを引き起こし始めた。
1973年には炭坑ストを収拾できなかったことで保守党ヒース政権が退陣に追い込まれ、炭坑労組はもはや触れられない存在になっていた。
当時のイギリスは、主なエネルギーを石炭に依存していたため、炭坑でストが起こると発電にも支障が出るし、交通にも支障が出る状態だったから、政府は毎年3000億円モノ助成金を支出し、赤字を補填していたのだ。
要するに、イギリス政府は、炭坑労組に毎年3000億円もの上納金を納める状態だったわけだ。
そこでサッチャーは、炭坑労組との全面対決を決意し、石炭の備蓄量を密かに増やし始めた。
発電設備を石油でも発電できるように改良し、石炭の緊急輸入の準備も整えた。
法律面では、労働運動と政治を切り離すために、労働条件と関係ないストは禁止する法律を作って、連帯ストが起こらないように準備した。
労働組合の民主化を図る法律を作り、ストを行う場合は組合員の投票で実施を決めなければ非合法とし、非合法ストでは組合の資金は使えないようにした。