為替レート安定は、最優先の国家政策
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自国通貨の価値・為替レートを一定に保つというのは重要な政策だ。
為替(かわせ)レートというのは、自国のお金と外国のお金の交換比率のことだが、為替レートが安定していないと、事業計画が立てられなくて投資できないのだ。
為替レートが大きく変動すると、儲かると思ったのに損をしたり、撤退しようと思ったら突然儲かって撤退し損なったり為替レートに振り回されるビジネスになってしまう。
こういうのは一種のバクチであるから、業績が安定しない。
そして業績が安定しない企業に投資するのもバクチであるから、まともな銀行融資も受けられないし、株価も乱高下してしまう。
なので投資リスクが大きくなって、堅実な企業ほど投資ができない環境になってしまうわけだ。
しかし経済というのは投資によって動くモノなので、投資がないと国の経済は止まってしまう。
そこで各国政府はこぞって為替レートの安定を図り、途上国の多くはアメリカ・ドルに対する固定相場制(ドル・ペッグ制)や、通貨バスケット制で為替レートを固定しようとするわけだ。
中国が先進国の圧力にも関わらず、通貨の自由化を頑なに拒んでいる理由もここにある。
中国の人民元の為替レートが切り上がると、中国の安い労働力は割高になって魅力がなくなり、外国企業はもっと労賃が安い国に生産拠点を移すだろう。
そうなると中国内で失業が増加し社会不安が増す。
その矛先はもちろん政治を独占している共産党に向けられるから共産党政権打倒の動きにもつながりかねない。
なので中国共産党は「共産党の生き残り」を賭けて人民元の為替レートを可能な限り低い状態に保ち、外国からの投資を減らさないように頑なに人民元の自由化を拒否しているわけである。
為替レートは一国の都合で決められない
為替レートの変動は、貿易とは関係ない国内経済にも及ぶ。
というのも輸入品の価格が大きく変動すると、国内ビジネスも業績見通しが狂うからだ。
たとえば円安になれば、石油をほぼ100%輸入に頼っている日本ではエネルギーコストが急激に増えてしまう。
特に運送業や漁業では燃料コストが跳ね上がって儲からなくなる。
儲からなくなった事業は縮小せざるをえないから、ボーナスカットや賃金ダウンも起こるし、企業倒産による失業も発生する。
また円安になると輸入穀物(小麦、トウモロコシ、大豆)の価格も上がる。
日本ではしばらくジワジワと円高が進んでいたため、穀物の国際価格が急上昇しているという実感はないが、中国やインドやアフリカの人口増で、穀物価格は上昇を続けているのだ。
ここで円安になると穀物価格上昇の大波をまともに被ることになるので、ラーメンやうどん、パン、鶏肉や卵などの基礎食料品の価格も、一気に上がって急なインフレが進むことになるだろう。
こういう急激な変化というのは大きな社会不安を生み出すので、各国政府は、為替レートの急激な変化を嫌い、為替レートを穏やかに変化させようとする。
だから日本が為替レートを金融政策で円安に誘導しようとしても、諸外国が「そんなずるいことをするな」と言って円安にならないわけだ。
為替レートというのはあくまでも相対関係で決まるので、一国の都合で勝手に自国に都合の良いレートに変える事はできないし、もしそんなことを秘密裏にやったのがバレたら、諸外国から猛烈な仕返しをされるに違いない。
それは1976年にイングランド銀行が秘密裏に行おうとしたポンド切り下げ政策でも、やはり同じであった。