知識の価値は、効用逓減がひどい
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個々の知識の価値は、ゼロか100である。
全く同じ知識は1個だけ手に入れれば良く、2個目は全くムダである。
知識を得るために、全く同じ本を5冊も10冊も買うことはまずない。
AKB48や「嵐」のCDを何枚も買う人がいるのは、そこに封入されている写真とか握手券などの特典が欲しいとか、ランキングで上位をとるのを助けたいということで、CD自体の価値を買っているわけではないのだ。
2つ目から財の価値が減ることを、経済学では効用逓減(こうようていげん)と呼ぶ。
効用(こうよう)とは「消費したときの満足度」と言う意味で、逓減(ていげん)というのは「だんだん減っていく」という意味である。
よく引き合いに出されるのが、ビールの効用である。
たとえば一杯目のビールは旨い。
だが二杯目・三杯目と呑んでいくと、だんだん最初のようには旨く感じなくなる。
物質としては、一杯目のビールも二杯目のビールも全く同じモノである。
にもかかわらず、「効用」つまり満足度がドンドン減っていくということだ。
知識の場合は、この効用逓減が甚だしい。
全く同じ知識の場合は、1つ目が100で、2つ目からはもうゼロである。
すでに知っている知識なら、1つ目からもう価値はゼロである。
ビールなら別の日にまた飲めば効用が100になるが、知識はもう一回きりである。
また知識というのは、別の知識と組み合わされたときに初めて価値が生まれる。
個々の知識だけでは、何の価値にもならない知識でも、上手く組み合わせることができれば、価値を生むこともできる。
そうなると、全く価値のないと思われていた知識でも、役に立ったりする。
知識は秘密にしないと富にならない
知識の価値は、ゼロか100である。
知識を生み出すコストはゼロではないが、必要としていない人にとっての価値はゼロになる。
たとえば最新鋭の飛行機の設計図があったとする。
最新鋭の飛行機だから、この設計図を作るには数千億円以上の資金が投じられているかもしれない。
だからこの設計図の価値は、かかったコストで言えば数千億円の価値になる。
しかしこの設計図を元に、実際に利潤を生むことができるのは、最新鋭の飛行機を作っている企業や軍需産業くらいだろう。
だから普通の一般人がこれを手にしても、ほとんど何の利益も得ることができないが、この設計図を作った主体は、必至になってこの設計図を守る。
ライバル企業や敵国に知られると、それだけで膨大な損失につながりかねない。
だから機密漏洩に最大限の努力を払う。
たとえばアメリカは、主力戦闘機であるF22ラプターを同盟国にも販売しない。
F22ラプターは、ステルス性能、つまり敵のレーダーに映りにくいノウハウの結晶だ。
機体の形状から塗料、部品の継ぎ目などの数を徹底的に減らした、知識の塊だ。
なので同盟国であり、戦闘機のお得意様である日本やイスラエルにも、売らないと言う。
アメリカが、F22ラプターをどうしても売らない理由は、戦闘機の売却益よりラプターの機密情報が他国に知られた場合の損失が、何倍も大きいと考えているからだろう。
ラプターは、本格的に実戦配備された世界最初のステルス戦闘機であるから、採用されている技術が何か分かるだけでも、膨大な開発コストが節約できてしまう。
「これとこれとこれとこれだけで良いんだな」と分かるだけでも、コストダウンになってしまう。
そうなると、他の国がステルス戦闘機開発に成功する期間が短縮されてしまい、アメリカの軍事力の優位性が失われてしまう。
独自に編み出した知識というのは、そうして秘密にすることによってしか利益にすることは難しいのだ。