アジア通貨危機にみる情報社会のスピード
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日本の国債が比較的安全なのは、自国通貨である円建てで発行されていて、日本円が国際通貨としての役割を持っているからである。
この辺が1997年のアジア通貨危機や、2001年のアルゼンチンのデフォルトや、2010年のギリシャのソブリン債ショックと異なるところだ。
この辺の通貨危機に関しては本題とは外れるが、常識として覚えておいた方がいいので、ここでちょっと整理しておこう。
まず、1997年のアジア通貨危機では、韓国・タイ・インドネシアが特に大きな危機に陥った。
これを一般に「アジア通貨危機」と呼ぶ。
これらの国々は当時、自国通貨の交換レートをアメリカ・ドルに対して固定して、高金利で外資を導入して輸出で稼ぐといういわゆる「ドルペッグ制・外資導入政策」を取っていた。
ところが1995年頃からアメリカが「強いドル政策」に舵を切ったために、交換レートを対ドルで固定していたこれらの国々は、輸出が伸び悩んだ。
ドルが上がったことで日本やヨーロッパへの輸出品の値段も上がってしまい、安さで売れていた商品が売れなくなったわけだ。
ここでこれらの国々のお金が不当に高く評価されている…と気づいたのが欧米のヘッジファンド(投資家)だった。
そこで彼らは大規模に、韓国ウォンやタイ・バーツ、インドネシア・ルピアを空売り(からうり)し始めたところから危機がスタートする。
固定されているモノはもろい
空売りというのは、代金を先にもらって商品を後で渡すってことだ。
つまり注文を先に受けてお金を預かってから、商品を発注するイメージだ。
株式市場や外国為替市場では、市場や取引きを常に成立させるために、信用買い(保証金の数倍の取引き)や空売り(信用売り)が認められている。
というのも必要があって株式や通貨を交換したい時に、それに応じてくれる相手が必ず現れるとは限らないから、必要がなくても株や通貨を売買している状態を、ずっと維持する必要があるからだ。
株式市場や外国為替市場、商品先物市場って言うのは、実はこう言う差益を狙って売買する人々によって支えられているんだ。
言葉は悪いが、金融市場って言うのはギャンブラーが支えているんだね。
でさて、1997年に韓国やタイやインドネシアの通貨が不当に高く評価されている…とみたヘッジファンドは、アジアの国々の通貨を空売りし始めた。
そしてこのことでドルペッグ制を取っていたこれらの国々は、自国通貨を手持ちのドルで買い支えつづけるか、為替レート引き下げ(変動相場制移行)か2者択一を迫られることになった。
空売りって言うのは、売った値段よりも安い値段で仕入れて儲けるわけである。
だから通貨を空売りする場合、将来これらの国々の通貨が値下がりすることを予想して売るってことになる。
変動相場制の場合は、上がるか下がるかは日々変わるので、儲かるか損するかは五分五分であって、際限なく空売りするバカはいない。
ところがドルペッグ制の通貨が不当に高く評価されている場合は、通貨の引き下げ(交換レートの引き下げ)があれば儲かるし、引き下げがなくても元の値段で買い戻せるわけだから、全然リスクがない。
だから世界中のヘッジファンドが、アジアの国々の通貨をドンドン空売りし始め、それでアジア各国政府や各国の中央銀行は、空売りを買い支えるか、ドルペッグ制をやめて変動相場制に移行するかの二択を迫られたわけだ。