逆資産効果発生で、好況から大不況へ真っ逆さま
更新日:
1997年に韓国やタイ、インドネシアの通貨が不当に高く評価されていると見たヘッジファンドは、これらの通貨の空売りを始めた。
それによってこれらの国々は、自国で保有している外貨を使ってこれらの空売りを買い支えるか、対ドルで固定していた自国通貨の為替レートを引き下げて事実上の変動相場制に移行するか、2者択一を迫られることになった。
しかし保有しているドルなどの外貨が尽きはじめると、通貨の切り下げ・変動相場制への移行しか選択肢がなくなり、これらの国々の通貨は大幅に下落して、株式価格も何割も下がってしまった。
通貨が下落したら、輸出国にとっては商品の競争力が上がって有利なわけだが、儲けが出始めるまでには時間がかかる。
その一方で株式や不動産などの価格はあっという間に下がったから、強烈な逆資産効果が発生し、消費があっという間に冷え込んで大不況に陥った。
逆資産効果というのは、持っている資産の価値が下がったために消費を控えるって事だ。
不動産や株に投資している人は、持ってる資産価格が暴落したことで消費を減らした。
その結果、モノも不動産も売れなくなり、賃金カットや倒産する企業が増えた。
もともと自国通貨がドル高によって高くなって輸出が減り、弱っていたところだからもう、弱り目に祟り目ってやつだ。
こういう場合は海外からまた、どっと投資が入ったりするモノだけれど、そのころはまだ、証券市場に外国人が投資するには様々な制限があって、すぐには資金が流入しなかったのも、大きく響いた。
アジア危機に対して、IMF(国際通貨基金)や日米欧の政府や銀行団は、緊急融資や借金の返済の繰り延べなど、さまざまな方法で支援したが、この混乱は世紀末まで続くことになった。
福祉目的の名目で放漫財政がハイパーインフレを生む
アジア通貨危機の記憶がさめやらぬウチに、ロシアやブラジル、そしてアルゼンチンでは、新たな通貨危機が発生していた。
特にアルゼンチンでは戦後から慢性的に公務員や労働者に手厚い政策を採り続け、福祉目的の名目で放漫財政を続けていた。
しかもそのためのお金は、シニョリッジ、いわゆる紙幣発行権を行使して調達したもんだから、1980年代末にハイパーインフレ(ものすごいインフレ)がひどくなり、ついには経済が破綻してしまった。
シニョリッジによる調達というのは簡単に言うと、印刷機を回してドンドンお金を刷って、公務員の給料など政府支出にあてるって事だ。
これは別名「インフレ税」なんて呼ぶこともあるが、これをやりだすと最初はいいが、結局ハイパーインフレが起こってしまう。
何の裏付けもなく紙幣を印刷して、それを政府支出として市場に出すと最初は収入が増えるので、収入が増えた人が消費を増やして経済はにぎわう。
だがこれは何の裏付けもない好景気だから、すぐに景気は醒めて逆にインフレだけ進む。
経済成長とは、生産性が向上して初めて成長するもので、お金だけ増えてもダメなのだ。
同じ資本(お金・土地・資源)で、より多くの生産ができるようになってこそ、一つ当たりの製造コストが下がり、みんなが潤うわけである。
で、経済が大混乱し、お金持ちや富裕層、中産階級層はドンドン海外に逃げ出した。
仕方がないからアメリカやIMFの指導を仰ぎ、アルゼンチン・ペソを対ドル固定として経済再建に乗り出した。
そしてようやく90年代には輸出も伸び始め、経済成長し始めたのだが、アジア金融危機の影響でブラジルが通貨を変動相場制に切り替えた余波で、アルゼンチンの輸出品が価格競争力を失い、外貨不足に陥った。
そうしてついに2001年11月には、アルゼンチン国債などのドル建てソブリン債の債務不履行宣言、いわゆる「デフォルト宣言」を行い、また経済が大混乱。
デフォルト宣言をすると、新たな国債を発行しようにも、もはや誰も買ってくれないから、財政も破綻。
これもアルゼンチン・ペソの為替レートが、アジア金融危機同様、対ドル固定のドルペッグ制だったってことが災いした。
為替レート固定相場制は、経済破綻のエネルギーを溜める装置になってしまった。
アルゼンチンは結局、翌年の2002年に変動相場制(完全フロート制)に移行し、またまた経済再建に再チャレンジ中である。