工業社会の不況は、モノが売れないって事
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景気が悪くなるとなぜ減税や公共投資が行われるのか。
そして公共投資をすると、なぜ景気が良くなったのか。
それは、公共投資によって有効需要が生まれ、乗数効果(じょうすうこうか)が生まれたからである。
この減税や公共投資によって失業率を下げることを思いついたのが、イギリスの経済学者ケインズだ。
20世紀初頭のイギリスは、失業率が10%にも達し、資本も海外流失するという状況だった。
18世紀末より始まった産業革命も、国内では工業化が一巡し、新たな投資先を求めて資本がイギリスから流れ出したのだ。
そこでケインズは「これって、モノを買ってくれる人が少なすぎるからと違うか?」と考えた。
つまり不況というのは「モノが売れない」→「在庫がたまる」→「モノを作らなくて良い」→「人を雇わなくてよい」→「失業率が上がる」→「モノを買う人が減る」→「モノが売れない」→ …という悪循環であるから、誰かがまずモノを買えばいいと言う話だ。
なので政府が公共投資を行い、失業者に収入を得るチャンスを与えれば、消費が回復し、それによって雇用も回復するというストーリーを提示した。
ケインズは、それまで市場万能だと考えられていた経済学に、不況を克服するために、政府の関与が必要だと唱えたわけだ。
これがいわゆるケインズ革命であり、政府が公共投資をやる一つの根拠なのである。
乗数効果と限界消費性向
公共投資によって需要を喚起するケインズ政策が注目された大きな理由は、投資によって乗数効果が生まれることを示したからだ。
乗数効果とは、金融でいう信用創造のような話である。
たとえば公共投資によって失業していた労働者が仕事に就いたとする。
そうすると、その労働者は受け取った賃金の一部を消費に回す。
収入が増えたのだから、その増えた収入のウチから何かを買って消費する。
そうすると、その分だけ需要が増えるので、また仕事が増えて、新たな収入が発生し、そのなかからまた何割かが消費に回って需要が増す。
この繰り返しによって、最初に100億円だけ公共投資を行えば、結果的に200億円や300億円と言ったように数倍の需要が増える計算になるのだ。
最初に投入した資本の何倍もの需要が生まれるので乗数効果と呼ぶのだが、何倍になるかは「限界消費性向」(げんかいしょうひせいこう)によって決まってくる。
限界消費性向というのは、1万円収入が増えたときに、そのうちどのくらいの割合が消費に回るかという値である。
たとえば1万円収入が増えたとき、8千円を消費に回すとすれば、10,000円×0.8=8,000円 8,000円×0.8=6,400円 6,400円×0.8=5,120円 …と言う風にお金が世間に回っていき、この無限級数の和を計算をすれば結果的に最初の5倍の5万円分需要が生まれることになる。
限界消費性向が0.6なら乗数効果は2.5倍、0.5なら2倍であるが、丹羽春喜氏の計算によると、1970年から2000年の間の日本経済の乗数効果は、実質で2.4から2.5で安定しているというので日本の消費者の限界消費性向は0.6ってことになるわけだね。
そうすると、2000年以降に平均30兆円ずつ増えた国の借金の乗数効果でGDPが75兆円分増えていてもおかしくないんだけれど、そうならなかったわけだ。