労働分配率が上がると、企業は倒産危機

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ウィルソン労働党内閣の「社会契約」は、賃上げ幅の上限設定によって、インフレと賃上げの悪循環を断とうというアイデアであった。

 

このアイデアは最初のうちは成功し、労働組合側も協力的であった。

 

またウィルソン内閣は、公約に掲げていた、年金のアップや住宅補助金のアップ、そしてVAT(付加価値税≒消費税)の標準税率の引き下げ(10%→8%)もすぐに実施したので、ほんの半年だけ労働者の可処分所得は増えた

 

ところが労働者の懐が暖まったのとは逆に、企業経営は窒息し始めていた。

 

というのも法人税の引き上げと課税強化、さらには税の繰り上げ納税を強制されたため、企業収益率が大きく下がってしまったのだ。

 

オイルショックによってエネルギー価格と原材料価格が値上がりし、企業の生産コストがジワジワと上昇し始めていたところに、社会契約によって賃上げにも協力せねばならなくなり、さらには法人課税も強化されたので儲けがゼロになったのだ。

 

そうして、73年には7.2%もあった税引き前利潤率が、74年には、4.0%まで落ちた。

 

税引き後の利潤率に至っては3.4%から、なんとマイナス 0.3%に落ちるという有様。

 

つまりイギリスでは企業がビジネスを行っても、一円も儲けることができない環境になってしまったのだ。

 

ウィルソン労働党はオイルショック直後の最悪のタイミングで、賃金アップ及び企業課税強化をしてしまった。

 

賃金アップで労働分配率(粗利に対する人件費の割合)は上がったが、労働分配率上昇=倒産の危機増大であるから、イギリスの産業界はもはや息も絶え絶えの状態に追い込まれてしまったことになる。

 


企業の利潤率がマイナスでは、誰も投資しない

オイルショック直後のイギリスでは、ウィルソン労働党内閣の政策によってモノを生産しても、生産コストと税金を支払うと、赤字になってしまうような異常状態が発生した。

 

オイルショックで生産コストが増大し、経営状態が悪化したところへ、法人税アップや課税強化が重なり、税引き後の利潤率の平均が、なんとマイナス0.3%になってしまった

 

要するに税金を支払ったら赤字状態で、これでは誰もイギリス企業に投資しようとは思わないだろう。

 

企業側もこの状況では、新規投資を諦めざるをえない。

 

だって利益が出ないのが分かってて投資したら、貴重な経営資源をドブに捨てるようなものだから。

 

なので経営者側も「資本のストライキ」を始め、この状態では来年にも経済危機に陥ると政府に迫った。

 

オイルショックという世界的大不況のさなか、賃金率アップと企業課税強化で、企業の利潤率ゼロになるような政策を続けていたら、投資はゼロになり、イギリス経済は壊滅してしまう。

 

そこでウィルソン労働党政権は、企業の利潤確保のために企業減税などの政策に転換せざるをえなくなった。

 

というのも企業に利潤が上がらなければ、労働者の賃上げに応じる力もなくなるわけだから。

 

仕方がないので企業減税を行い、替わりに所得税は2%引き上げられ、VAT(付加価値税≒消費税)の最高税率適用範囲も、贅沢品全般に広げざるをえなくなった。


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