行き過ぎた雇用至上主義
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インフレ退治のためのサッチャーの政策は、金利の引き上げと財政赤字削減だった。
戦後のイギリスでは雇用が最大の経済課題であり、失業対策でケインズ政策が採られた。
投資を増やすために金利を引き下げ、政府による投資も増やすことによって景気を支え、失業者を減らした。
ところがそうやって人為的に雇用を守っているのにもかかわらず、雇用が守られることを良いことにして労働者達はストに励んで賃上げをもぎ取り、終わりのないコストプッシュインフレを引き起こしてしまった。
さらに巨額の財政赤字が発生しているのにもかかわらず、公務員までもが職務を放棄して賃上げを要求しはじめ、衰退産業の保護のための補助金もふくれあがる一方になった。
これらの背景にあるのは雇用至上主義であり、労働者の利益を守るためには何をしても良いという風潮だった。
つまり雇用至上主義政策によって、モラルハザードが発生してしまったのだ。
そして雇用至上主義・労働者利益最大化は、企業の利潤率ゼロという異常事態を招き、イギリス経済の息を止める寸前まで来てしまった。
なのでまずサッチャーは、財政と金融を引き締め、不要な財政支出をカットすると同時に、VAT税率を引き上げて財政の健全化を図った。
金利を引き上げ、貨幣供給量の拡大を抑制することによって、インフレ率の引き下げを狙った。
これらの政策によって、製造業を中心に失業者が増え、失業者数も100万人から200万人に倍増したが、保守党党首のサッチャーにとっては想定内の失業者数で、労働党の首相経験者から辞任を求められても屁のカッパであった。
脱ケインズ政策で、失業者3倍増
サッチャーは金利を引き上げ、財政支出も引き締めた。
つまりケインズ政策の反対をやり始めたのだ。
金利を引き上げて財政支出を減らしたら、企業の資本コストは増えるし、売り上げも減るから企業業績は落ちる。
そうなると倒産に追い込まれる企業も増え、製造業を中心に失業者があっと言う間に増えた。
100万人に達していた失業者は、すぐに200万人を超え、360万人にまで達した。
しかし、雇用至上主義で行き詰まったイギリス経済を立て直すには、それくらいの出血はやむを得ないという判断だったのだろう。
イギリスには失業給付などの社会保障制度があったし、医療も無料であったから、数年は大丈夫だという算段もあった。
実際、財政削減を行ったのにもかかわらず、失業給付が増えたため、赤字は殆ど減らなかったことだし。
その一方で、投資を拡大するために、税制改革も始めた。
投資を拡大するには、投資をする人間にお金を渡さねばならない。
つまり企業の法人税や、個人の所得税を減税して、投資を増やそうという戦略である。
そのために直接税を減らし、間接税を増やした。
手始めに1973年に導入されたVATの税率を8%から15%に引き上げた。